
酒樽、徳利、サイコロ等々。仏の生前の好物をかたどった墓は、死まで苦楽を共にした仲間からの贈り物という。同じく向畑にあり、法名○○信士、脇に俗名○○と刻まれた墓の、カナクギ流の文字が哀れをさそう。その昔、仲間が島酒をくみかわし、石に酒をかけて供養したのだろう。
この墓石をつくったのは、同じ流人だった江戸の石屋の丑松だった。丑松は、浮気な女房を殺害した流人だという。仲間の死を悼むために石斧を振るい、博打好きには茶碗とサイコロ、一日中酒を飲んでいる仲間には酒樽を墓碑とした。そのようにして自分自身の苦しみを石斧に託し、苦悩を和らげたのだろう。ひとつの執念が実った時、男も島で果てた。奇怪な墓々は、石工自身の記念碑でもあったように思われる。
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